第3幕小夜曲 第13場ポニーの丘に来るテリィ

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キャンディは、返事を出さなかったので、テリィは何もわからずにいた。

たぶんキャンディは、テリィからの便りなど欲しくはなかったのだろう。

そうだとしても、どうしてテリィにキャンディを責められるだろう?

テリィは自ら選択し、キャンディを追いやったのだ。

何年もの時が過ぎていった。

幼かった二人が遠い昔に抱いた恋心──。

それをいまだに引きずっているテリィなど、愚かに見えることだろう。

もしかしたら、考えたくはないが、キャンディは誰かと結婚しているかもしれない。

──でも、もし、キャンディが手紙を受け取っていなかったら?

******


「キャンディスさんに会いに行くべきよ」

テリィの母親は、告げた。

「それが、......あなたがアメリカに戻って来た本当の理由ではないの?」

テリィは、何かを探すように外を見つめながら、母親のアパートの窓辺に立っていた。エレノア・ベーカーは、紅茶をもう一口、口にふくむと、テーブルにカップを置いた。

「もしもあなたが、まだキャンディスさんを愛しているなら、キャンディスさんを探しに行くべきだわ。答えは見つかるはずよ」

エレノアは、息子の影を見つめていた──なんて哀しげな陰影なのだろうと......。

テリィには、エレノアが正しいと分かっていた。手紙だけでは足りない。

(あそこだったら......)

テリィは、遅かれ早かれ、何があろうと、キャンディが、あの場所ヘ帰ることを知っていた。

決めるやいなや、テリィは、ニューヨークからミシガンまでの直近の列車の切符を購入した。

(何が起ころうと......キャンディに会わなければ......)

列車の中でテリィは窓の外を見ていた。

テリィは、長い、長い間感じていなかった自由を感じていた。

テリィの頭の中に、かつて、シカゴ発の汽車から見たキャンディの白衣姿が鮮やかに蘇った。

テリィの口元に笑みがこぼれた。

(──キャンディ、おれ達は、時間を戻せるだろうか......?)

テリィは、ポニーの丘に近づくにつれ興奮を抑えきれずにいた。

テリィは、この瞬間を待ちわびていた。

落ち着かなかった。

テリィがポニーの家に着いた時には、既に夕暮れだった。

入り口の前にいながら、扉を叩くのを躊躇った。

テリィは、そこで二人の女性、ポニー先生とレイン先生と再会した。

( ──時間は誰も待ってくれない。この場所ですら変わってしまった )

あたりを見回したテリィは、今ではポニーの家も改築されて大きくなっている事に気づいた。

あらためて見直せば、ポニー先生もレイン先生も一層年老いて見えた。ポニー先生は更に弱々しく見えた。

(──キャンディも変わっていたら?)

そう考えると、つい顔が強張った。

二人の女性は、彼の訪問に心底驚いた。

「キャンディがどこにいるのか、教えて頂けませんか?──ぼくは、キャンディに、どうしても会わなければいけないんです」

ポニー先生とレイン先生は、顔を見合わせた。戸惑っているようだった。やがて先生達は、テリィを中へと招き入れた。

テリィが二人の後に続こうとしたちょうどその時、7、8歳位の男の子が入口からテリィを通り越し、ポニー先生の後ろに立った。

「キャンディを探しているの?」

「そうだよ。何処にいるのか知っているのかい?」
テリィは、尋ねる。

「勿論、知ってるよ。ボクはピーター、キャンディの子分さ。キャンディ親分がどこにいるのか知らなきゃ、呼び出された時に真っ先に駆けつけられないじゃないか!子分として、当然さ!」
ピーターと名乗る少年は自慢げに言った。

「親分は、たった今ポニーの丘に行ったよ」
丘の方を指差し、ふくれっ面で言った。

「親分と競争したかったのにさ。気分じゃないからって、ボクに戻れって言うんだっ」

(──キャンディはここにいるっ!!)

テリィの瞳が輝いた。

テリィは、ポニー先生とレイン先生に振り返ると

「失礼します」
と言って、急いで飛び出して行った。

「テ、テリュースさん、お待ち下さいっ!」
レイン先生は慌てて言ったが、テリィの姿はもうそこにはなかった。

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now