キャンディは、返事を出さなかったので、テリィは何もわからずにいた。
たぶんキャンディは、テリィからの便りなど欲しくはなかったのだろう。
そうだとしても、どうしてテリィにキャンディを責められるだろう?
テリィは自ら選択し、キャンディを追いやったのだ。
何年もの時が過ぎていった。
幼かった二人が遠い昔に抱いた恋心──。
それをいまだに引きずっているテリィなど、愚かに見えることだろう。
もしかしたら、考えたくはないが、キャンディは誰かと結婚しているかもしれない。
──でも、もし、キャンディが手紙を受け取っていなかったら?
******
「キャンディスさんに会いに行くべきよ」テリィの母親は、告げた。
「それが、......あなたがアメリカに戻って来た本当の理由ではないの?」
テリィは、何かを探すように外を見つめながら、母親のアパートの窓辺に立っていた。エレノア・ベーカーは、紅茶をもう一口、口にふくむと、テーブルにカップを置いた。
「もしもあなたが、まだキャンディスさんを愛しているなら、キャンディスさんを探しに行くべきだわ。答えは見つかるはずよ」
エレノアは、息子の影を見つめていた──なんて哀しげな陰影なのだろうと......。
テリィには、エレノアが正しいと分かっていた。手紙だけでは足りない。
(あそこだったら......)
テリィは、遅かれ早かれ、何があろうと、キャンディが、あの場所ヘ帰ることを知っていた。
決めるやいなや、テリィは、ニューヨークからミシガンまでの直近の列車の切符を購入した。
(何が起ころうと......キャンディに会わなければ......)
列車の中でテリィは窓の外を見ていた。
テリィは、長い、長い間感じていなかった自由を感じていた。
テリィの頭の中に、かつて、シカゴ発の汽車から見たキャンディの白衣姿が鮮やかに蘇った。
テリィの口元に笑みがこぼれた。
(──キャンディ、おれ達は、時間を戻せるだろうか......?)
テリィは、ポニーの丘に近づくにつれ興奮を抑えきれずにいた。
テリィは、この瞬間を待ちわびていた。
落ち着かなかった。
テリィがポニーの家に着いた時には、既に夕暮れだった。
入り口の前にいながら、扉を叩くのを躊躇った。
テリィは、そこで二人の女性、ポニー先生とレイン先生と再会した。
( ──時間は誰も待ってくれない。この場所ですら変わってしまった )
あたりを見回したテリィは、今ではポニーの家も改築されて大きくなっている事に気づいた。
あらためて見直せば、ポニー先生もレイン先生も一層年老いて見えた。ポニー先生は更に弱々しく見えた。
(──キャンディも変わっていたら?)
そう考えると、つい顔が強張った。
二人の女性は、彼の訪問に心底驚いた。
「キャンディがどこにいるのか、教えて頂けませんか?──ぼくは、キャンディに、どうしても会わなければいけないんです」
ポニー先生とレイン先生は、顔を見合わせた。戸惑っているようだった。やがて先生達は、テリィを中へと招き入れた。
テリィが二人の後に続こうとしたちょうどその時、7、8歳位の男の子が入口からテリィを通り越し、ポニー先生の後ろに立った。
「キャンディを探しているの?」
「そうだよ。何処にいるのか知っているのかい?」
テリィは、尋ねる。「勿論、知ってるよ。ボクはピーター、キャンディの子分さ。キャンディ親分がどこにいるのか知らなきゃ、呼び出された時に真っ先に駆けつけられないじゃないか!子分として、当然さ!」
ピーターと名乗る少年は自慢げに言った。「親分は、たった今ポニーの丘に行ったよ」
丘の方を指差し、ふくれっ面で言った。「親分と競争したかったのにさ。気分じゃないからって、ボクに戻れって言うんだっ」
(──キャンディはここにいるっ!!)
テリィの瞳が輝いた。
テリィは、ポニー先生とレイン先生に振り返ると
「失礼します」
と言って、急いで飛び出して行った。「テ、テリュースさん、お待ち下さいっ!」
レイン先生は慌てて言ったが、テリィの姿はもうそこにはなかった。
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The One I Love Belongs to Somebody Else 〜それでも君を愛してる〜 By Alexa Kang
Fanfiction小説キャンディキャンディファイナルストーリー後に書かれた、Alexa Kang による二次小説を、ご本人の許可を得て翻訳、編集した日本語版です。編集にあたり、若干のご協力を頂きました。いがらしゆみこ氏、名木田恵子氏が生み出した登場人物にあわせ、二次オリジナルキャラも登場します。