第4幕幻想曲 第22場 二人だけの4日間

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「テリィ、どこへ行くの?」

北へと車を走らせるテリィは、ただほほ笑むだけで、口はつむんだままだった。
キャンディは、不安になってきた。

二人は既に1時間もドライブを続けていたが、キャンディには、テリィが何処へ向かっているのか、全く見当がつかなかった。

「もう随分遠くへ来ちゃったわ。わたし、......サウス・ヘヴンを離れるなんて一言も言ってないわ」

「へぇ、てっきりおれと駆け落ちしたいんだと思っていたよ」
テリィは、笑いながら言った。

「そんなこと、言ってないわ!」
キャンディは叫んだ。

「......テリィ、遠くへ来すぎよ。戻りましょう!」

「戻るだって?冗談だろ?」
テリィは、言い放った。

「君、云ったよな。例の名無しの誰かさんは、町にいないって。だ・か・ら」
テリィはスピードを落とすと、キャンディを見た。

「君には、彼が戻るまでの1分1秒をおれと過ごす為にあげるよ。君は、彼が戻るまでの4日間しか、おれにくれないんだ。これからの4日間は、君は誰のものでもないんだ」

「でも診療所には、わたししかいないのよ!」
キャンディは、声を荒らげた。

「もし、誰かが病気になったらどうするの?」

「誰のものでもないって云っただろっ!」
断固とした声でテリィは言った。

「病院だったら、サウス・ヘヴンにだってあるんだ。落ち着けよ!心配しなさんなって!」

キャンディは、目の前に続く道路を見つめた。

自分の行動がだんだん恐ろしくなってきた。
迂闊だった......。
アーロンの留守中のハッピー診療所を守るかわりに、テリィに会いに来るなんて。
そして今、テリィは、キャンディも知らない、神様だけが知っているであろう場所へとキャンディを連れて行こうとしていた。
テリィと一緒にいることへの罪悪感は、言うまでもなかった。
ましてや、アーロンは何も知らないのだ。
テリィは、キャンディを横目で見た。
キャンディを不安にさせたくはなかった。

「──ただ4日間、君と二人だけになりたいだけさ、キャンディ。二人だけで、......他人のことなんて考えなくて済む......そんな場所に行きたいんだ」

──キャンディは、ため息をついた。
キャンディが、アーロンを選んだとテリィに伝えようと決めたのは、まだ昨日だというのに。

でも、その代わりにキャンディは、今、テリィと浮気まがいのことをしようとしていた。
キャンディも、テリィも、多くを犠牲にし、失ってきた。
キャンディは、全てを取り戻したかった。

──ほんの少しの間でも。
(──アーロンが戻るまでの数日の間だけ......)

キャンディはテリィに告げた。
『毎日あなたに会いに来るわ。10年前に出来なかったことを分かち合いましょう』

──たった数日の間であっても、キャンディは、ニューヨークに行ってすら得られなかったこと、学院のシスター達の監視や病院の受付や、二人の間に立ち塞がる義務やら全てを取り除いて、テリィと一緒にいたかった。

アーロンを裏切っているのかもしれない。
いや、少し違っていた。

キャンディは、過去に戻って、遠い昔に失ったものを探したいだけだった。
無くしてしまった大切なものの一部を探すように。
そうしてそれを拾い上げたら、心の宝箱にそっとしまい込んでおきたかった──。

アーロンと結婚の誓いをたてる前に。

『そして、その後はどうなるんだ?』
テリィはキャンディに訊ねた。

キャンディは答えなかった。

ャンディは、自分自身にテリィと4日間一緒にいたいだけだと、言い聞かせた。

誰も知る必要はなかった。

アーロンもジェーン夫人も知る必要は決してない。

そして、それでもまだキャンディは、セシリアとの約束を守ろうとしていた。

(──ただ4日間だけ......)

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now