ホテルの従業員が、若い女性が面会を求めていると伝えに、部屋の扉を叩いた。テリィは、椅子から飛び降り、キャンディに会えると期待しながら、ホテルのロビーに駆け下りていった。
しかし、そこにいたのは、初めて見る女性だった。
彼女はまっすぐにテリィを見ているその瞳は、突き刺さるように冷たかった。
「何か、僕に御用ですか?」
テリィは礼儀正しく訊ねた。
「あなたがテリュース・グレアムさん?」
彼女の声は、氷のようだった。
「セシリア・ハーレーと申します。キャンディの婚約者の妹ですわ」
思いがけない発言にテリィは、戸惑った。
「キャンディに頼まれて来ましたの。この手紙を、あなたに渡してくれるようにと──」
セシリアは、手に持っていた手紙をテリィに渡した。
それは、キャンディが、テリィにノーと伝えようと以前に書いたものだった。
あの日、手紙を破棄するつもりでいたセシリアだったが、キャンディが去った後に、不穏な感情が沸き起こった。
特に何も考えずに、取り敢えず取っておくことに決めたのだった。
ここに来る途中も、躊躇しなかった訳ではなかった。
セシリアは、越えてはいけない一線を越えようとしていることも分かっていた。
しかし、アーロンはここ数日心底傷ついていた。
これ以上、兄のあんな姿を見るのは忍びなかった。
テリィは手紙を受け取ると、すぐさま読み始めた。
落胆した──。
打ちのめされた気分だった。
『何が正しい事なのか......考えるから』
それが、キャンディがテリィに云った最後の言葉だった。
(分かっていた......)
テリィは、苦笑いを浮かべた。
そう予測すべきであった。
『でもそうしてしまったら、沢山の人々を傷つけてしまう。わたしには、そんな事は出来ません』
キャンディは、そう綴っていた。
いつだって誰も傷つけまいと行動する。
それがテリィの知っているキャンディだった。
『もちろん、アーロンへ愛情を抱いています。この3年間、アーロンは私の側にいてくれました』
(──おれは、10年間どこにいたんだ?他の女性の為に人生を捧げていたんだ)
「これは、キャンディと兄が婚約した時の写真です」
セシリアは、写真をテリィに手渡した。
テリィは、受け取らずにただ写真を見た。
そこに写っていたのは、この上なくハンサムな男性だった。
キャンディも嬉しそうだった。
キャンディの幸せも、キャンディを愛しているその男性も申し分ないと、はっきりと見て取れた。
「キャンディは、......キャンディは、今どうしているんです?」
テリィは、生気の無い静かな声で訊ねた。
「もちろん、キャンディは、とても深く落ち込んでいます。泣き止むことが出来ずにいます。あなたに、自分では会いに来れなかった。だからわたしにここに来るよう頼んだのですわ」
(──写真の中のキャンディは、幸せそうに見える。おれがここに来たことで、キャンディを苦しめている。おれは、かつてニューヨークで、キャンディに言ったんだ。幸せにならないと承知しないと──。それなのに、おれは、やはりここで、キャンディを苦しめているのか──)
「キャンディは、既に決断しています。ここをお発ちになった方がよろしいのでは、と思いますけれど。あなたは、もう十分すぎる程問題を起こしていますわ。キャンディと兄に、平穏な時を返してあげてくださらないかしら。来月には結婚するんですもの」
(キャンディの幸せを妨げる原因になるわけにはいかない──)
──テリィはもう一度写真を見た。
(これがキャンディが決めたことなら──、キャンディが幸せになれるなら──、苦しむのはおれでいいんだ)
「......わかりました。ハーレーさん」
テリィは、言葉を喉につまらせながら、絞り出すように言った。
「......今すぐここを発ちます。......ご迷惑をおかけして、......申し訳ありません」
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The One I Love Belongs to Somebody Else 〜それでも君を愛してる〜 By Alexa Kang
Fanfiction小説キャンディキャンディファイナルストーリー後に書かれた、Alexa Kang による二次小説を、ご本人の許可を得て翻訳、編集した日本語版です。編集にあたり、若干のご協力を頂きました。いがらしゆみこ氏、名木田恵子氏が生み出した登場人物にあわせ、二次オリジナルキャラも登場します。