第26場原っぱでの午後

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午後だった。

テリィは、隣に座っているキャンディの横で、草むらに寝転んでいた。
キャンディは、陽の光を浴びているテリィを見ていた。

今朝一番に見たテリィは、ベージュのベストとトラウザー、水玉模様のネクタイにハンチング帽といういでたちだった。

キャンディは、そんな姿のテリィをとてつもなく可愛いと思っていた。
キャンディ自身は、細い肩紐のサテン地の水色のワンピースを着ていた。

ここでの3日間は、まるで夢のようだった。

カサンドラから借りた沢山の美しいドレスに身を纏い、ハンサムな護衛役のテリィを従えて、キャンディは自分がまるで、おとぎ話の中のプリンセスになったような気分だった。

昨日テリィは、湖畔へとドライブに連れて行ってくれた。

しばらく水辺で戯れた後は、ただ座って湖を見ていた。

キャンディは長い間、波を見ていた。
波が打ち寄せるごとに、キャンディの心の中では、蘇ろうとする感情の波がうねっているようだった。

テリィは、くつろいでいた。

目は閉じていたが、眠っているわけではなかった。
キャンディの視線に気づいていたが、テリィは気にもとめなかった。

思わず笑みがこぼれた。

(──まるで、セントポール学院にいるみたいだな)

テリィにとって、セントポール学院から今日までの10年間は、存在していないに等しかった。

監督により削除されたひとコマのように──。
それはまるで、主演女優が現れない場面が永久に台本から消されてしまったようだった。

テリィにとって、学院での時間と現在が橋でつながっていて、この繋がったものだけが唯一無二の物語だった。
何もかも、誰もかれもが、テリィの記憶から薄れていった。

消去と廃棄──!

無駄にしていい時間など、もう、ありはしない。

テリィは半身を起こすと、ふざけてキャンディを抱き寄せた。

キャンディは、テリィの身体の上に覆いかぶさってしまい、テリィは倒れ込んでしまった。

キャンディの薄い服地から、テリィはキャンディの柔和さを直に感じとった。

「もう!何するのよ!」
キャンディは、笑いながら叫んだ。

テリィは、キャンディの顔を覗き込む。

まるで春に咲く満開の花のようだ──。

「君のそばかすを数えてるのさ」

昔だったら、キャンディは凄く怒っただろう。
今のキャンディは、テリィにいつも "レディ・そばかす" と呼んで欲しかった。

ゆっくりと体を倒すと、テリィにそっと口づけた。

(君と一緒にいると、悩みなんて微塵も感じないんだ、キャンディ)

「学院にいた時はこんなことしなかったよな、......レディ・そばかす ?」
テリィは、明るく笑いながら言った。

キャンディも笑顔で応える。
「ふふっ、あの頃しなかったことをしてみたいんだわ、きっと」

「そうなのかい?おれってそんなに幸運だったのか!」

キャンディは心細げにテリィを見つめ返した。
「...... あなたが学院を去ったと知った時、船が、......港を出てしまう前に追いつこうと、必死で、......後を追ったのよ。......夜明け前だった。空はまだ暗かった。馬車は早かった。......けれど遅かったのよ。......あの時、わたし、......気がついたの......」

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now