第33場ポニーの丘でアーロンと対顔

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穏やかな風が、ポニーの丘に吹き抜ける。

優しい朝の太陽の陽射しが草むらに広がり、照らすものすべてを包み込んでいた。

丘の上に立っている二人の身体をも照らすその光は、まるで抱擁してくれているように安らぎを与えてくれ、心地良かった。

二人は、目の前に広がる雄大な景色を眺めていた。

アーロンは、あの日のことを思い出していた。

キャンディと一緒にこの同じ場所に立ち、ボストンでの仕事を諦め、ここで町医者になると告げたあの日のことを──。

それは、寒い冬だったことを除けば、今日とさほど変わりない日であった。

この美しい景色を見渡していたあの時のアーロンには、その後の人生航路は、明確に思えた。

『ボストンでのお仕事に未練はないのですか?評判の良い病院なのでしょう? 』

キャンディは訊ねた。

アーロンは、笑うだけで答えなかった。

どうキャンディに説明できただろう──。

キャンディをひと目見たあの瞬間からここを離れたくない、と思ったことなど──。

アーロンの心は、キャンディの笑顔に釘付けになった。

周りにいる人々の魂を浮き立たせる元気の源であるかのように、幸せを振りまく影響力のあるあの笑顔に──。

気さくで、いたずら好きで、おっちょこちょいな一面とは裏腹に、内には山のような強さを秘めた少女。

深く輝くエメラルド色の瞳は、それらを見たどんな男性をも虜にしてしまう。

丘を自由に駆け回り、魅惑的な緑の瞳をたたえ、頬を赤く染めながら、異性に色香を振りまいていることなど、キャンディ自身、全く気づいてもいない。

では、ここに残った理由は何だったのだろう?

ボストンにいながら、どうやってキャンディの愛を得られたというのか?

マーチン先生の突然の引退宣言と、診療所を継いで欲しいという申し出。

アーロンは、マーチン先生が自分のキャンディへの気持ちを薄々察し、先生なりにキャンディとの仲を取りもとうとしていたことを知っていた。

勿論、キャンディは何も気づいていなかったけれど──。

自分の気持ちを伝えるのに1年かかってしまった。

なぜなら、アーロンが気を引こうといろいろ試してみようが、キャンディは無関心なのか、何も気づかなかったから──。

そして、ついにあの日、キャンディにとっても、自分にとっても予想外だったが、やっと告げられたのだ。

『──キャンディ、......もし僕が、......僕が求めているのは、......君だけだと言ったら?』

アーロンが思い描いていた光景とは程遠かった。

頭の中で最高の告白シーンを何百回も想像していた。

答えを懇願していたその質問は、不意に飛び出した。

あれから3年たった──。

このまま、今後もこうして過ごせるならば、後悔することなど何もないだろう。

キャンディとアーロンは広大な牧歌的な景色を見ながら並んで立っていた。

アーロンは何かを予感していた。

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now