第35場再会

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何時間もの汽車の旅──。

じっと座ってなどいられない。

キャンディは、落ち着かず焦りを感じていた。

(あなたは、また、......行ってしまうの?わたしが伝える前に......)

すでに8時間汽車に乗っていた。

空はすっかり暗くなっていた。

キャンディは、窓の外を眺めていた。

前回のこの同じ旅路では、汽車はキャンディをただ苦しみへといざなった。

(──でも、今度こそ!決して、諦めないわ!)

キャンディは、小さなオルゴールを握っていた。

もう音楽を奏でないオルゴール、でもキャンディは乗車中ずっとそれを握りしめていた。

まるでそうすることが、あのひとを探すたった一つの希望であるかのように──。

ニューヨークに着いたキャンディは、喧騒に包まれ、人混みに飲み込まれていった。

都会の熱狂的なさまが、キャンディの不安を更に掻き立てた。

手掛かりはたった一つ。

エレノア・ベーカー。

数年前、エレノアはキャンディに手紙を送り、ニューヨークへと再び招待してきた。

あの時、申し出自体は断ったキャンディだったが、手紙はとっておいた。

手紙には、エレノア・ベーカーの住所が書かれてあった。

キャンディは、最初に見つけたタクシーに乗り込んだ。

どうか、今も同じ場所に住んでいますように──。

どうか、テリィの居場所を知っていますように──。

やがてタクシーはタウンハウスに着いた。

キャンディは勇気を振り絞り、呼び鈴を鳴らした。

使用人が応答し、キャンディをエレノア・ベーカーの住居へと案内してくれた。

ステアの、キャンディが幸せになり器を握りしめながら、エレノアが同じ場所に住んでいて、しかも在宅であったという幸運な星のめぐり合わせに感謝した。


「キャンディ!」

エレノア・ベーカーは、キャンディを見て驚いて言った。


一刻も早くテリィを見つけたい余り、エレノアへの挨拶もままならずに訊いた。

「ミス・ベーカー!テリィがどこにいるかご存知ですか?お願いです。テリィを見つけないといけないんです。見つける必要があるんです!!」


キャンディの必死な口調に、エレノアはたじろいた。


「──テリィなら、ロンドンへの帰路の途中よ」

キャンディは、一気に沈み込み、ひび割れた床に落ちていってしまうように感じた。

しかし、キャンディに希望の言葉がもたらされた。


「52番埠頭。船は2時間後に出航よ」


キャンディは、ショックから立ち直りながら、素早く深呼吸をすると、何も言わずにエレベーターをも通り過ぎ、建物の外に続く階段を駆け下りていった。


「キャンディ!」

エレノアは、キャンディを呼び止めたが、キャンディの姿はもうなかった。

「まったく、あの二人は......」

エレノアは、そっとつぶやいた。

******

道路へ急いで戻ったキャンディは、また別のタクシーをつかまえようと必死だった。

乗客を乗せたタクシーが一台、また一台と、通り過ぎていく。

息が苦しい──。

取り乱しそうになってきた。

涙で瞳が霞んでいた──。

(お願いよ!行かなくちゃいけないの!)

やっと、タクシーがつかまり、キャンディは乗り込んだ。

「52番埠頭へ!急いで!お願い!人を探しているの!船に乗ってしまう前に──」
間髪入れず、運転手は猛スピードで車を発進させた。

タクシーの窓から見える景色は、歪んでいた。

今すぐにでも埠頭を目にしたかった。

(テリィに追いつきますように......。どうか、......テリィに会えますように......)

キャンディはひたすら祈った。

(今回は──。テリィ!世界の果てまで追いかけるわ!)

キャンディは、車内でずっと、テリィの名前を繰り返しささやいていた。


埠頭に着くやいなや、キャンディはタクシーから飛び出した。

埠頭は大勢の人で混雑していた。

混沌としていた。

人波を見ながらキャンディは、気が遠くなっていった。

(ここでどうやって、テリィを見つければいいの?)

途中、人にぶつ借りながらもキャンディは、とりあえず乗船場の方へと急いだ。

(もう、船に乗ってしまったかもしれない......)

そう思うと胸が苦しかった。

乗船場には近づけたものの、キャンディは乗船場がいくつもあることに気がついた。

(──テリィはどこなの?)

キャンディは、見慣れた顔を見つけようと、あちらこちらを見渡してみたが、見つけられなかった──。

絶望感に襲われてきた。

気が散乱し、周囲の注意を怠ったキャンディは、近くを走り回っていた二人の小さな子供に突き飛ばされてしまった。

よろけて、数十センチ離れた別の人の背中にぶつかってしまった。

その人は、少しふらついたが、キャンディの腕を掴んで支えてくれた。

キャンディは、無鉄砲な子供達に向き直り、苛立って叫ぼうとした。

しかし見知らぬ力で動かされたように、自分の腕を掴んでいる人物を振り返って見た。

(──テリィ!!)

キャンディとテリィは、見つめ合っていた。

──お互いに、お互いの目に映る人物が信じられずに──。

ようやくキャンディは声を上げ、瞳からは涙が溢れ出す。

腕を振り払うと、テリィの胸を叩き始めた。

「もう二度と......」

感情に押し潰され、喉が詰まって、言葉もままならなかった。

「もう二度と、......こんな風にわたしを、......おいて行かないで!二度とよ!分かった?」

驚きながらもテリィはキャンディを引き寄せしっかりと抱きしめた。

「──ここで、何をしているんだい?」

信じられずに訊いた。

「......行かないで、テリィ!行かないで!あの手紙は違うの!あなたに伝えに行こうとして、......あなたに伝えようとして、......でも、あなたはもういなかった......」

瞬時にテリィは、成り行きを理解した。

キャンディは、戻ってきたんだ!!

「ここにいて!!」

テリィは舞い上がる気持ちを抑えながら、笑みを浮かべて言った。

「嫌だね──」

「......嫌って?」

「君も、一緒に、来るんだ!」

そう言うとテリィは、キャンディを包み込み、長い長い口づけをした。




The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now