第29場キャンディの窮地

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サウス・ヘヴンへの帰路中、テリィはいつもよりゆっくりと車を走らせていた。
キャンディとの残された時間を惜しむかのように──。


テリィは、悲しみに包まれていた。

この後何が起こるのかわからない──。

テリィにはキャンディも同じことを考えているように見えた。

二人は、クレアモント・インに戻って来た。

やるせない沈黙が漂う。

(おれといてくれと言ってしまいたい!本当に4日で終わりにしたいのか、と──)

テリィが尋ねようとキャンディを見ると、キャンディの顔は、苦渋に満ちていた。

言葉は、喉につかえてしまった。

(──おれがここにいることが、キャンディを苦しめているのか......)

テリィは、10年前の事を思い出していた。

キャンディは、自分がいることがテリィを苦しめるからニューヨークを去ると、頑なに言い放った。

過去の記憶はテリィの心を苦しめ、全身の血の気を失っていくように感じた。

キャンディの表情が、明るい笑顔に変わった。

しかし、テリィにはキャンディが自分の気持ちを隠して、テリィを傷つけまいとしていることがわかった。

「テリィ、......何が正しいことなのか、考えるから。......本当よ」

キャンディは、テリィを安心させるように言った。

テリィはキャンディを見ながら眉をひそめていた。

不意にキャンディは、テリィに近づくと優しく口づけた。

「きちんと考えるから......」

キャンディは、笑顔のまま振り向いてそう言ったが、テリィは、頬に溢れる涙を見逃さなかった。

(──キャンディに幸せになって欲しい。それなのに、──おれのせいで幸せじゃあないなんて......)

テリィは、キャンディを見送りながら、自分の行動に初めて疑問を感じていた。

******

キャンディは、ハーレー宅へと歩いていた。

アーロンはもう戻ってきているはずだ。
キャンディはアーロンに会いに行くべきだと思った。

何をしていいのか今もわからずにいたが、これ以上アーロンに秘密を持ちたくなかった。

来月の結婚式は、ありえないことだった。

こんなにも強くテリィを想っている時に結婚なんて......。

(でも、アーロンのことも愛している......)

キャンディが、アーロンが家族と一緒に住んでいる家に近づくと、手彫りの小さな人形が窓辺に並べられているのが見えてきた。

サウス・ヘヴンに引っ越してきてから、アーロンは木彫りを趣味としていた。

アーロンはとても器用で、ノミ打ちの技術は精細だった。

研修を終えたばかりのアーロンが、そのままボストンに行っていたならば、今頃は立派な外科医としての地位を確立していただろう。

彫刻の人形は、美しく複雑なデザインだった。

アーロンは時々、ポニーの家の子供達の為に動物を彫ってくれた。

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now