長い間キャンディとテリィは、並んで湖を見ていた。
森を抜けた湖のそばで、時は止まっているようだった。「ごらん。あれがこの世で一番古い色......空と水の色」
キャンディは、そよ風が吹くごとにテリィがささやくのを聞いた。
日没だった。
キャンディもテリィも、1日が終わって欲しくなかった。
それでもだんだん暗くなってきて、二人はホテルに戻らざるを得なかった。ゆっくりと歩いて行った。
誰もいないからか、テリィは、キャンディとしっかりと手をつないでいた。ホテルに戻った二人は、カサンドラに温かく迎えられた。
「キャンディ!夕食に備えて着替えましょうね。さあこちらへどうぞ」
カサンドラは、キャンディの手を取ると、二階のキャンディの部屋へと向かった。メイドも一緒についてきた。
テリィは、ほほ笑みながらその様子を見ていた。キャンディの部屋のベッドの上には、何着ものドレスが広げられていた。
どのドレスもうっとりするほど美しかった。それらは、時々ファッション雑誌で見たことのある、けれどキャンディ自身が決して着ないような洗練されたフラッパードレスだった。
「どう思って?」
カサンドラは、大きな笑みをたたえながら、キャンディに訊いた。「引退して、田舎暮らしかもしれないけれど、お洒落のセンスとクローゼットの中身は捨てていないのよ。ドレスなんてありすぎて数え切れないわ。気に入ったのなら差し上げてよ」
「そんな、とてもいただけません」
キャンディは、恭しく言った。「あらあら、遠慮深い方だったのね」
カサンドラは、そう言うと、ベッドから柔らかいシフォン生地のピーチ色のドレスを選んだ。大きく開いた襟元、深いV字型は背中を顕にし、シフォンで作られた花飾りが腰にあしらわれていた。
「今夜はこのドレスを着るといいわ」
「大胆過ぎます!」
キャンディは、声を上げた。「あらまあ!もしあなたが、あの話題に事欠かないテリュース・グレアムの恋人なら、これ位しないと。特に二人一緒の写真を撮られた時なんてどうなさるの?」
(テリュース・グレアムの、......恋、人、......)
キャンディの心は、その甘美な響きで満たされた。「テリュースは、公の場が嫌いよ。でも役者には避けられないわ。だから結局、後ろめたいことなど何もないと、堂々としてればよろしいのでなくって?着ているものについての批判など、特にさせるべきではないわ」
(テリィは、公の場が好きではない......。もし、婚約者のいる女性とテリィが一緒にいると知ったら、世間はテリィを中傷するのかしら?)
キャンディは、自分達の行動によって引き起こされるかもしれない事態を思うと、苦悩した。
「このネックレスがドレスに良く似合うわ」
カサンドラは、机の上に置かれた大きな宝石箱の中から、真珠の長いネックレスを取り出すと、メイドに指示をした。「チェルシー、キャンディさんの着替えを手伝ってあげてちょうだい。髪型も変えてさしあげてね。わたしは下に戻りますから」
カサンドラは、再びキャンディをからかうように見ると、部屋を出ていった。
キャンディが晩餐用に身支度をしている間、テリィは既に着替えをおえていた。
ESTÀS LLEGINT
The One I Love Belongs to Somebody Else 〜それでも君を愛してる〜 By Alexa Kang
Fanfiction小説キャンディキャンディファイナルストーリー後に書かれた、Alexa Kang による二次小説を、ご本人の許可を得て翻訳、編集した日本語版です。編集にあたり、若干のご協力を頂きました。いがらしゆみこ氏、名木田恵子氏が生み出した登場人物にあわせ、二次オリジナルキャラも登場します。