第27場わたしの愛しているひと 

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キャンディとテリィがホテルに戻ると、そこは妙に静かだった。
誰もかれもが、去ってしまったようだった。



「みんな、どこへ行ったのかしら?」
キャンディは、つぶやいた。


「さあな。多分、カサンドラが何か面白いものでも見つけて、皆で見に行ったってところか?」

「きっとそうね。夕食用に着替えてくるわ。カサンドラが戻って来たときの為に 」
キャンディは、テリィに満面の笑みでそう言うと、自分の部屋へと向かった。

テリィは、キャンディを見ながら、また1日が終わってしまうことが益々悲しくなってきた。

(──今日はおれ達のここでの最後の夜か──)

テリィは、ピアノの上のメモに気がついた。

テリュース

今夜はペントウォーターで、ひと騒ぎしてくることに決めました。世間の注目も必要だし、わたしを時折り、今でもスターだと思わせてくれるファンがうるさいのよ。従業員も全員連れていきます。わたしが彼らなしでは、何一つまともに出来ないことは、あなたも知っているでしょう?明日の朝には戻ります。おもてなしが出来なくてごめんなさいね。次は埋め合わせさせていただくわ。チェルシーが用意した夕食が、台所にあります。

C.L

テリィは、思わず笑ってしまった。

緊張がほぐれ、ベストを脱ぎ、蝶ネクタイとシャツの一番上のボタンを外すと、ホテルの応接間へと向かった。
再びピアノを弾きたい衝動にかられた。


二階ではキャンディが、ベッドの上にカサンドラが準備しておいた黒い豪華なドレスを見ていた。
すべてが黒で飾られていたレース地のドレスには、ラッパビーズが散りばめられ、ビーズのベルト、サテン絹のリボンもついていた。

ドレスを胸にあて鏡の前にたった。


ほんの数日前まで、キャンディはこんなにも大胆で露出した服など、着る度胸もなかった。
それが今では、カサンドラから借りたドレスにすっかり慣れてしまっていた。

それはただドレスが美しかったからではなかった。
キャンディは、それらに身を包み気軽に動き回れることが好きだった。
身軽な動きと、束縛されない感情を楽しんでいた。

( テリィがわたしの首筋やあらわになった肩に触れる感触も大好き......)

キャンディは、そんなふうに考えている自分に驚き、恥ずかしくなって、鏡に映る自分の姿から慌てて目を逸らした。

キャンディが下の階に行くと、テリィが静かでロマンティックで、そして耳をくすぐるような曲をピアノで弾いていた。

キャンディは、テリィがモーツァルトとクラシック音楽を弾くのを聞いたことはあった。
しかしここ数日、テリィはジャズも弾いていた。

ピアノを弾くテリィの姿は、キャンディがセントポール学院の音楽室で初めて見た時のように、格好良くて穏やかだった。
キャンディは、応接間の入り口に寄りかかり、テリィの奏でる美しい旋律に聴き入り、酔いしれていた。

演奏を終えたテリィは、キャンディに気づき顔を上げた。
キャンディはテリィに近づいていくと、隣に座って訊ねた。


「なんていう曲?素敵ね 」

テリィは、ほほ笑みながらキャンディを見て言った。

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangDonde viven las historias. Descúbrelo ahora