クレアモント・インに近づくにつれ、キャンディは、テリィの言葉を思い出していた。『おれはこのベンチで、毎日君を待つよ。おれを選ぶのか、彼との結婚を選ぶのか決めるまでな!』
( テリィは、本当にベンチで待っているのかしら? )
キャンディは、2日前にテリィと一緒に歩いた道をたどっていった。
二人で語り合ったベンチに近づくと、テリィが一人ベンチに座り本を読んでいるのが見えた。(──こんなにテリィに会いたかったなんて......)
「......テリィ?」
キャンディは、近づきながら声をかけた。
「キャンディ!」
テリィは驚いて立ちあがると、キャンディを見た。
信じられなかった。
抱きしめたい衝動に駆られた。「二度と来てくれないんじゃないかと思っていたんだ。この間から毎日ここにいたんだぜ」
見つめ合う二人。
キャンディは、テリィから目を逸らせない。
「 ──今も、シェークスピアを読んでいるの?」
キャンディは、思いついたままの言葉を口にしていた。
テリィは、ほほ笑むと本を掲げた。
「"真夏の夜の夢 " さ。このお芝居の最も有名なセリフを知っているかい?」
「なあに?」
「真実の愛は決して簡単ではない」
テリィは、そう応えると付け足した。
「まさに同感だな」
「......その通りね。......ロミオとジュリエットは......もう読まないの?」
キャンディは、話題を変えた。
テリィは笑った。
「......いいや。悲しい結末は、もう嫌なんだ」
キャンディは、息を深く吸い込むと足元を見下ろした。
やがて二人はゆっくりと、歩き始めた。
夏の朝の陽射しは、まだ穏やかだった。
朝霧は徐々に消えていく。
木の上では鳥達がさえずっていた。
「──教えてくれないか?キャンディ。──これまでどうしていたのか」
真剣な口調でテリィが訊いた。「......そんなに......悪いものでもなかったのよ、......本当よ。悪くはなかったの、全然......」
キャンディは、テリィにほほ笑んだ。
テリィは一心にキャンディを見つめている。
キャンディは、ほほが熱くなるのを感じた。
顔が赤くなってはいるかもと、テリィに気づかれなければいいと願った。
「──アルバートさんがね、実は、アルバートさんが、ウィリアム大おじさまだったのよ。ウィリアム・アルバート・アードレー。アルバートさんが、わたしを養女にしてくださった、アードレー家の大総長だったの」
「本当か?」
テリィは、驚いて言った。
「アルバートさんは、記憶を取り戻してから、やっと皆に自分の正体を明かしたの。わたし達は、皆とても驚いたのよ。わたしのことをずっと見守ってきてくれていたのに、それを全く知らずにいたなんて......。でもその後は、アードレー家の大総長としての責任を担って、会いたくても、中々会えなくなってしまったの。暫くして、サン・パウロに向けて旅立ってからは、時々そこをまた訪ねたり、他にもいろいろな都市に行っているのよ」
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The One I Love Belongs to Somebody Else 〜それでも君を愛してる〜 By Alexa Kang
Fanfiction小説キャンディキャンディファイナルストーリー後に書かれた、Alexa Kang による二次小説を、ご本人の許可を得て翻訳、編集した日本語版です。編集にあたり、若干のご協力を頂きました。いがらしゆみこ氏、名木田恵子氏が生み出した登場人物にあわせ、二次オリジナルキャラも登場します。