第6幕第37場テリィの帰宅

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日が暮れてきた。

エイボン川がゆるやかに流れるそのそばにある英国の家──。

川からのひんやりとした風が、波立つ想いを穏やかにしてくれる。

庭のラッパ水仙の香りが漂ってくる。

新しい人生と精神がその甘い香りと共にキャンディにもたらされたようだった。

陽が沈み、空を暗く染める直前の夕陽が、黄金の光を放っているように見えるのは、たくさんのラッパ水仙が満開になっているからだ。

そしてその光は、キャンディに自分自身の人生を思い起こさせるのだった。

わたしは、一人部屋の中に座っていた。

薄青い夕闇が流れ込み、わたしの指先を白く浮き上がらせている。

たくさんの失ったもの、得たもののことを考えていた。

これまでに集めた思い出を宝石箱の中にしまいながら、過去を振り返り、時々涙した。

ポニー先生の言葉が頭によぎる。

『曲がり角を曲がったところには何が待っているかわからない』

胸が痛くなるようなことと出会ったとしても、怖れずに突き進んでいけば、またその先の曲がり角にはきっと、わたしの心を和ませてくれるすばらしい何かと出会えるだろう。

わたしは、そう信じている。

わたしは、運命は影だけを生みだすのではないことを知った。

光り輝く運命をもたらすこともあるのだと──。

******

そのとき突然、部屋の灯りがともった。

優しい声が聞こえてきた。

わたしの大好きなあのひとのほほ笑み──。

あのひとの──テリィのほほ笑み。

『灯りもつけずに、どうしたんだい?キャンディ』

テリィの車の音が聞こえなかったなんて!

『おかえりなさい!』

わたしは、声を詰まらせながら、テリィが広げた腕の中に飛び込んでいった。










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補足

参考資料
太字斜体字で表記の部分は以下より引用
名木田恵子著
祥伝社 2010年11月10日発行
小説キャンディキャンディファイナルストーリー上巻
231頁
小説キャンディキャンディファイナルストーリー下巻
330頁、331頁
本来であれば*印をつけ詳しく表記すべきなのですが、省略させて頂いております。
不都合があれば訂正致します。












The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now