第34場最終決断

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辻馬車は猛スピードで走っていく。

キャンディにはそれでも遅いと感じられた。

(......どうして?どうしてわたしを待っていてくれなかったの?......どうして最初にわたしに言ってくれなかったの?)

辻馬車がクレアモント・インに向かう間、キャンディの頭の中はそんな思いでいっぱいだった。

着くやいなや、キャンディは建物に駆け込むと、ホテルの従業員を呼び出した。

「テリィ!テリィ・グレアムはどこにいるの?ここにいるの?ねぇ、どこなの?」

キャンディは、テリィのことを知りたくて詰め寄った。

坊主頭で小太りの50歳位の男性従業員は、若い女性を少し戸惑い気味に見た。

「宿泊客なんです。お願いします。テリィはまだここにいるんですか?テリィにわたしが会いたいと伝えてください!」

「あぁ、そういうことか。ちょっと見てみよう」

従業員は、そう言うと、ゆっくりと宿泊帳簿を調べ始めた。

一方でキャンディは、ますます落ち着きを失い、我慢できなくなっていった。

のんびりとした動作を見ていたキャンディの怒りが頂点に達しそうになった瞬間、ようやく従業員が言った。

「待たせたね、お嬢さん。残念だけど、彼は昨日チェックアウトしたよ」

キャンディの体からは力が抜け、頭の中は真っ白になった。

(──どうしてこんなふうに行ってしまえるの?)

何が起こったのかを理解しようとしていると、従業員がキャンディに訊ねた。

「もしかしたらお嬢さん、キャンディス・ホワイト・アードレーさんかい?彼から手紙を預かっているんだよ。もしその人が来たら渡して欲しいって」

キャンディは、手紙を受け取るとその場で読み始めた。

" キャンディ、

セシリアさんから君の手紙を受け取った。 

君の決断は理解した。

おれのことは心配しないでくれ。

別れを言うのは辛い──。

おれにまた、会わなければいけない、とか考えて欲しくないんだ。

でも、一緒に過ごした4日間は、──ありがとうな......。

あの4日間は、おれにとって、かけがえの無いものになった。


おれはいつも君の幸せを祈っている。

T.G. "

「テリィはどこに行くか言っていましたか?」

キャンディは、期待することなく、弱々しい声で従業員に訊いてみた。

「いいや、すまないね、お嬢さん。何も云わなかったよ。でもニューヨーク迄の汽車の切符の手配を頼まれたよ。おそらくそこに行ったんじゃないのかい?」

(──ニューヨーク、テリィを探しに行かなくちゃ)

キャンディはホテルを飛び出すと駅に向かった。

(次のニューヨーク行きの汽車で......)

ニューヨークへ向かう次の汽車に乗れば──。

今度こそ、今度こそ違うはずだ──。

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The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now